過去に、ある男たちがいた。それは天候に恵まれず、運に見放され、辛酸を一度舐めた男たちだ。
ある男がいた。それは重荷を背負いながら安全を守るために使命を果たす、今最も漢気を持った男だ。
ある男がいた。それはこの旅を始めた最初の英雄であり、その復活を願って助力を申し出てくれた男だ。
ここに7人の男が集まった。
静岡300への挑戦が始まった。
24時間以内に太平洋から日本海へ水を届けにいくのはそう簡単なものではなかった。
4月とは思えない暑さに体力を奪われ、思ったように進めないものもいた。
緊張からか事前の睡眠時間が足りず、休憩のたびに眠るものもいた。
相当の準備と覚悟をもって臨んだはずの登りで、まるで呪いであるかのように足が攣り、心が折れそうになるものもいた。
だが、それでも前に進むことを止めはしなかった。
身延まんじゅうを食べた。疲れた体に優しい甘みが広がっていった。
鯉のぼりを見た。まるで我々の旅路を祝福するかのように、一斉に空を泳いでいた。
度々休憩をした。休憩中の会話は笑いが絶えず、疲れていることを忘れさせてくれる、安らかな時間であった。
日が暮れようとも、日付を越えようとも、ただひたすらに、がむしゃらに前へと進み続けた。その先にある景色をただ目指して。
そしてついに、その瞬間は訪れた。
午前四時のことだった。
波の音を聞いた。紛れもなく、それは我々が待ち望んだ、日本海の海の音だった。
走行時間21時間30分。静岡300成功。
とうに限界を超えている眠気や、溜まりきった疲労が全てどうでもよくなるような、何事にも代え難い心地の良さが、体全体に染み渡っていくような感覚だった。決して楽ではない。楽しいことばかりでもない。それでも、この感覚を味わえただけで、この旅に意味はあったのだと、そう思えた。
そんな、一生の思い出に残る、密度の濃い21時間30分だった。
静岡300メンバー
走者
東壱成
伊藤大輝
真鍋晃
園井誠
井上雅也
サポートカー
平野綜
後藤匠
後藤さんはサイクリング部のOBであり、仕事の合間を縫ってこの300のサポートを買って出てくれた。彼の献身的なサポート無しでは、この300の達成はありえなかっただろう。この場を借りて、敬意と感謝の意を表したい。
本当に、ありがとうございました。
ある男がいた。
少し強い、だが心地のいい風が吹いている。
写真係 園井