僕らが再び直江津で波の音を聞けたのは中田島砂丘を発って23時間後。
そこにスタートメンバー全員は揃わなかった。1人がリタイアしていた。
彼が自分を除くメンバー7人だけで先を目指すよう告げたのは、浜松から200キロ、3度目の休憩中でのことだった。
その時をもって、この400は完遂され得ぬものとなった。
それでも日も沈みゆく中、先を目指さぬ訳にはいられなかった。
託された彼の魂とともに7人で漕ぎ着けた。
“SUCC浜松400”
今年の春も、静岡県浜松市の中田島砂丘にて汲み取った太平洋の海水を、新潟県上越市直江津にて日本海へと注ぐ、それだけのグループライドが行われた。
最重要な達成目標、それは、スタートメンバーを1人として欠くことなく無事に直江津へとたどり着くこと。
そして、約400キロの行程を24時間以内に走破することを目指す。
この企画にただの速さは必要ない。それぞれの強さを持ち寄りみんなで走るのが浜松400だ。
突っ走りたければレースにでも出ればいいし、時間と距離の認定が欲しければブルベにでも出ればいい。
1人で黙々と打ち込むことも尊ばれるがチームで取り組むことへの価値も無視できない。
サドルの上には1人だが、決して僕らは独りではない。
朝焼けの日本海にたどり着いたとき、茶化しあいながらもそれぞれに秘めた思いがこみ上げてきたことだろう。
寒さに震えながら越えた県境。
脚だけじゃなく
気力や
眠さまでもが限界にきていたメンバーもいたはずだ。
いてもたっても居られず浜松から輪行してまで途中合流してきた彼を除いては。
精神的に苦しい今年の400でも希望を持ち続けた。
命からがら温もりを貪ったのは、
予定していたコンビニ休憩を失ったから。
街の灯に安堵しながらも心許なさが拭いきれなかったのは
メンバーを欠いて間もなかったから。
ふたつのアルプスに挟まれた伊那谷を走るのは気持ちよかったし
治部坂峠を越えたときはまだ中盤とは思えない達成感があった。
桜の景色に春の訪れを喜び、
全員がはしゃいでいたのが遠い昔のようだ。
この400に、僕らはチームで臨んだ。
始点と終点を結ぶ手段に、好き好んで自転車を選び、
誰に言われずともあの日スタートを切ったのはそれぞれ自分自身だ。
きっと楽で楽しい部類のものじゃない。
一人ひとりが目指すものは同じじゃない。
それでも8人でひとつ、成し遂げたかったことは1つ、はっきりしている。
今回こそ叶わなかったが次はきっと違うだろう。
次こそはみんな揃って。
SUCC浜松400 2018春
/実行班/
アスカ(1回目、リタイア)
アルト(1回目)
タクミ(2回目)
ショーゴ(2回目)
ナラ(2回目)
ハヤシ(2回目)
クラ(1回目)
マツミヤ(5回目、筆者)
/スペシャルゲスト/
マサチカ(3回目?輪行で長野から参加)
キシポン(過去に4回、見送りありがとう)